記憶を無くした猫

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「おう、起きたか」 しゃがれた声がして、顔をその方向に向けた。 電気がついていない為か、室内は窓の周り以外そこまで明るくはない。 薄汚れた白い壁。そこに古ぼけた時計が一つ。 幾つものベッドや棚が置かれ、棚からは先程より鼻を鈍らせてくれている臭いが漂っていた。 部屋の中でただ一つ置かれている机の傍から、白衣を来た灰色の老猫が、椅子をキシキシ鳴らして白猫を見ていた。 持っていたカルテに数行走り書き、それを机に置くと立ち上がって近づいてくる。 「見た感じ、正常じゃな。気分は悪くないか?」 垢が目立つ爪で顎を掻きながら、丸まった背を更に丸め、目線を合わせる。 瞬きを数回繰り返し、白猫は口を開いた。 「………あの、ここは?」 喉から出たのは、凜とした男性の声だった。
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