記憶を無くした猫

4/7
前へ
/11ページ
次へ
「しがない病院で、村唯一の医療機関だ」 「………病…院」 「で、儂は唯一の医者じゃ。名はススキという」 ちぢれ毛の間から、犬歯を出してニヤリと笑う。そして、白猫の手首を持つと、脈を取り始めた。 「お前さんは、砂浜で倒れ取ったらしい。病院に着いた時には、随分と衰弱しておった」 「よし」と頷き、ポケットから紙とペンを取り出して、素早く何かを書き付ける。 「脈が若干速いな。傷はかすり傷程度、と。なにか、吐き気なんかはあるか?」 「………少し、頭に痛みが。あの、私はどうやってここに?」 「ああ。ミカヅキがお前さんを見つけて、ここに連れて来たんじゃ」 「ミカヅキ?」 すると、ススキの背後から重量のある物が床に落ちる音がした。 「じいさん、今週分の荷物だ」 その後に続く、冷たい声。 ススキは振り返ると、「おお」と返事をした。 「ご苦労さん。そうじゃ、ミカヅキ。お前さんが運んできた奴が目を覚ましたぞ」
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加