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白猫に見える様、ススキがその場から退く。
そこに立っていたのは、黒猫だった。
目深に帽子を被り、薄汚れたロングコートで体を包んで、そのポケットに前足を突っ込んでいる。
左頬には、歪曲した細い傷が深く刻まれていた。まるで、夜空に浮かぶ三日月の様に。
冷たい、金色の二つの光が白猫を見つめていた。
「起きたんだな。………傷は、大丈夫か?」
そう聞かれ、肩がびくつく。黒猫の目の奥があまりにも暗く、深く、白猫はそこに飲まれてしまう様な感覚を覚えた。
「あ、はい」
「………そうか」
黒猫は一瞬視線を外し、軽く息を吐き出す。
「俺の名は、ミカヅキだ。運び屋で、ここに荷物を届けに来る途中で、あんたを見つけた」
先程ススキの座っていた椅子を引き寄せ、遠慮も無くそこに座る。車輪がキィと軋む。
「………あんた、運がよかったな」
「?………なぜですか」
「もう少しで、カモメの餌になっている所だったからさ」
「………」
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