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「酒の精霊ですか?」
「ああ、滅多に人の前には出てこない珍しい精霊なんだが、こいつは厄介極まりなくてな」
フィールさんがいうには、酒の精霊とは次のような物であるらしい。
酒を造っている精霊で彼らが居れば、水も酒に変えることができる。
何故だか酒職人と仲が良く基本は彼らと一緒に仕事をしている。
「へ~、でもどこが厄介なんですか?」
聞いている限り特に昨日の火と水の喧嘩騒ぎほど、大変であるようには感じないのだけれども――
「それはだな、奴らは酒を飲まないと酔っぱらってるんだよ」
「ん? 普通は逆ですよね?」
「ああ、そうだ。だから厄介なんだよ。しかも、自分の作った酒は基本飲んでも酔いが覚めないと来ている」
「なんとも、変わった精霊ですね」
「否定はしないさ。で、今回厄介なことに、酒職人と酒の精霊が喧嘩をしたらしいんだが、彼らの仲介をしてもらいたい」
どうやら、厄介なこととはこのことであったようだ。
だけれど、それでも酒さえ飲んでもらえれば――
「厄介なのはそこじゃなくて、1万オッチまでなら経費ででるが、それ以上は自腹みたいだぞ?酒代。
ちなみにビール1L程で約1分しか酔いが覚めないみたいだから、まぁ頑張れ」
そんな絶望的な言葉に俺は頭を抱えて、「おおおお」と叫んでしまった。
今月の下手するとスズメの涙程の給料が自分で飲まない酒代に消えるかもしれないという、理不尽さを心の底から叫んだ。
何故1Lも飲んで約1分しか、正気を保てないのですか?
ビール1Lで、約800オッチだから経費で落ちるのは約12分。
どう考えても、12分では解決できませよね? もうちょっと経費を増やして貰えたりしないだろうか?
そんな心の声を察したのか、フィール先生は残念そうに俺に告げる。
「多分1万オッチ以上は出ないぞ?」
「誰かに仕事チェンジして貰えませんかね?」
「無理だろうな」
無情にもこんなわけで、俺の給料が飛ぶ可能性が確定的な仕事をすることになったのだった。
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