太陽と月、水と油

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 不機嫌そうな低い声に、  先生はびくりと肩を震わせた。  私もすっかり畏縮してしまい、  彼と先生を交互に見る。  「早く持てよ」  彼がそう言うと、  先生は渋々段ボールを持ち  重そうに引きずる。  彼はちいさく舌打ちすると、  優しそうな目を  あたしに向けた。  「大丈夫?   重かっただろ」  気遣ってくれる暖かい言葉が  心に染み込む。  「大丈夫だよ。   ありがとう、助けてくれて」  そう言ってはにかむと、  彼がぴたりと固まった。  「…あ、はは、いえいえ。   偶然通りかかって良かった。   じゃ、また」  目を泳がせてすぐに立ち去った  彼を不思議に思いながら、  私はゆっくりと階段を登った。  あの大きくて綺麗な手。  さらさらの髪。  可愛らしいタレ目。  私の名前を呼んだ、あの声。  それだけで私は彼を、  早見くんを  好きになってしまったのだ。  クラスが違うから、  話すことは滅多になかった。  委員会や移動教室で  見かけるだけで、  私の胸は高鳴っていた。  クラスの子たちが、早見くんは  都内で有名な私立高校を  受験するという話をしていた。  半信半疑だったけど、  少しでも彼と繋がっていたい。  そう願った私は、  今通っている私立高校を  第1希望で受験した。  偏差値はそんなに高くないから  一生懸命勉強したら  ギリギリ合格できた。  入学したあと、私のクラスに  早見くんがいると気付いた時は  嬉しくて嬉しくて  叫びそうになってしまった。  それから2週間くらい  経った頃だ。  この、“昼休み終了5分前”の  日課が始まったのは。 _
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