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ギイが行ったのは、ただパロットラの機首を下方へ向けただけ。
果たしてその事にどのような意味があるのか。それを知る者は彼しか居らず、そして一人始まりを待つ彼が、それを誰かに話すような事も無い。
ギイは硝子板から面を上げ、周囲に展開された外部映像を見る。左方、まず映るのは黄金色の鳥。サンダーバードはギイにとっては見慣れた機体だ。その能力も殆ど知っている。強力ではあるが、手の内の見えた相手。対処の手は幾らでも思い浮かぶ。
──と、ギイの視線が僅かに逸れた。 雷鳥の向こうに、黒色の鋼の姿を見つけたからだ。
彼にとっては、サンダーバード以上に見慣れた馴染み深い機体、ヴィルレル。今はヴィルレル・ドゥというのが正式な名だという。
「…………」
ただ熱の感じられない視線が、黒色の影を暫しなぞり──そして離れる。
彫りの深い顔には、何の変化も無い。荒れた髪の下、巌のような表情から彼の考えを読み取るのは難しい。
狭い搭乗領域。一人深く操主席に身を沈め、ギイは無言のまま“通功議会”からの合図を待つ。
──時が過ぎる。
開幕戦の始まりは、もう直ぐそこまで迫っていた。
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