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はぁ、はぁ、はぁ、
どこかで事故があったらしく、道は大渋滞。
動きませんね~って呑気なタクシードライバー
俺はもうここでいいですって言って、
ちっとも進まない車を降り、真冬の大都会を全力で走ってる。
都会のど真ん中を走るのに、革靴は向いてない。
撮影の衣装で着ていたスーツの裾が冷たいビル風ではためく。
赤信号でネクタイ緩めて、一回膝を屈伸してからまた全速力で走りだした。
(ちくしょ、○○チャペルってどこだ…!)
「ちょっと、あれって、」
「うそ!まじホンモノ?なんで?
」
さあ。なんでだろう。
俺もわかんないよ。
なんでこんなことしてんのか、めっちゃ謎。
撮影、途中で放り出して
なんでこんなばかみたいに走ってんの。
まずいって、マネージャーキレてるって。
まじ俺ばかだよな。
でも…俺、今から人生で一番バカなことしてきます!!
(あった…!)
ビルに埋もれた真っ白なチャペル。
ぽっかりと、そこだけ切り取ったような青空から光が降り注ぎ、
幸福の鐘が鳴り響いていた。
俺は震える心臓に喝を入れて、がくがくする膝にもう一度力入れて、階段を駆け上がった。
勢いに任せて扉を開け放つ、その一瞬前に、みんなの顔を思い出した。
父さん
母さん
兄ちゃんに弟。
ランとジェリー
みんな、ごめん。
ほんとに、ごめんなさい。
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