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―天正十年(1582年) 春―
「母様―。見て―!桜がとっても綺麗よ―!」
桜吹雪が舞う中、愛くるしい笑顔の少女が並木を走り抜ける
『こら、摩阿姫。お行儀が悪いですよ?』
少女を注意したのは
前田利家の正室であるまつ。
少女は、前田利家の三女摩阿姫である。
「母様、摩阿はお嫁に行くの?」
摩阿姫は、母まつの着物の袖をギュッと掴み尋ねた。
『そうですよ?摩阿姫は佐久間十蔵様に嫁ぐのよ』
「佐久間様はどんなお方なの?」
まだまだ幼い少女にとって、他家に嫁ぐのは未知の世界。
不安でいっぱいの摩阿姫である。
摩阿姫は北之庄の柴田勝家の家臣である十四歳の佐久間十蔵との婚約が決まっていた。
そんな娘に、母まつは優しく答える。
『佐久間様は、きっと父上様のように素敵な殿方ですよ。』
「父様のような方?」
『ええ。だから、安心して大丈夫よ?きっと毎日が楽しいわ。』
「はい!摩阿は父様や母様のような夫婦になりまする!」
『ふふ、それは楽しみね。』
けれど、世は天下分け目の戦国時代。
この時から既に運命の歯車は回り始めていたのである…
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