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死の雪が降ってきたのは、二日ほど前のことだ。
この日は全国的に卒業式が行われる日で、俺を含めた高校生の多くは室内にいた。
予兆は、後から思い返せばあったのかもしれない。
その日は妙に重苦しい雲が空をかけていて、確かに嫌な予感はした。
これは雨が降るかもしれない、と傘を持って家を出たことを覚えている。
お兄ちゃん今日高校卒業だねえと言っていた妹のことも。
雨が降りそうで降らないという見ているとだんだんイライラしてくる天気は、卒業式が終わる頃まで続いた。
降るなら降っちまえ、それはそれで楽しいぜ、と三年間の付き合いの友人が言うくらい、もどかしい天気の中。
世界を終わらすそれは、始まりをつげていた。
どんよりをもっと強調させた言葉がもしも存在するなら、その言葉は今日という日の為に作られたのだと言えるくらいの天気から、まず初めに、いきなり晴れ始めた。
雲一つない晴天という言葉がぴったりな天気。
ちょうどそのころは、卒業式が終わって別れ惜しむ先生のぐうたら話を聞いていたころだと思う。
先生の話が終わり、じゃあ校庭に出て記念撮影でもしようか--なんてそんなころに。
朝の重苦しい雲が復活して。
雪は降り始めた。
最初の犠牲者は、面白がって雪に触れた卒業生のうちの一人だった。
彼は落ちてくる軌道に手をのせて、雪をつかもうとした。
卒業式に雪なんていう、珍しい状況を楽しもうとした気持ちがわからないわけでもない。
むしろそうなるほうが普通だ。
普通じゃなかったのは、雪のほうだった。
卒業式という涙交じりの思い出のシーンに、空気を読まず登場した雪は、やはりまともなものではなかった。
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