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教室の中には黒板にチョークがあたるカツカツという音が響いている。
男子生徒が時々手を止め考えながら問題を解いている。
と、その時授業終了のチャイムが鳴り教室に漂っていた緊張が一瞬にして崩れた。
俄に生徒たちがざわめきだす。
「この問題、次までの宿題だ。全員きっちりと解いてくるように。」
東は生徒たちに向かって声を張り上げた。
東は33才、あの日朱音の後ろ姿を見送ってから十七年の歳月が流れていた。
昨年から母校である私立港北高校で教鞭をとっている。
東は国立の教育大学を卒業後、ずっと公立高校で数学教諭をしていた。
大学卒業を目前に母校からも声がかかっていたが東は敢えて母校以外の、しかも公立高校を選択した。
公立高校なら数年ごとに転勤がある。
東は同じ高校に長く留まることを嫌った。
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