プロローグ

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 外はまだ肌寒く春の訪れが遠く感じられる三月中旬、16才の倉原東は成す術もなく想い人の後ろ姿を見送っていた。 彼女は今日でこの私立港北高等学校を退職する。 木下朱音、東の担任で国語教師である彼女は一ヶ月後には結婚を控えている。 彼女に婚約者がいることははじめから解っていた。 朱音が教師で東が生徒だということ、たとえ朱音が教師でなくても自分が未成年で朱音とは10才の年齢差があること、様々な障害を全て理解した上で東は朱音のことを愛した。 朱音はどうだったか…。 果たして東の気持ちに気付いていたのか。 朱音は気付いていたと東は思っている。 気付いていて気付かないフリをしていた。 東はそれでもよかった。 むしろその方がよかった。 自分の気持ちを朱音に告げる気は毛頭無かったから。 今の東はまだ高校生であまりにも無力だった。 だから彼女の後ろ姿を見送りながらただ一つ、彼女の幸せを願っていた。
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