1912年4月10日

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ウォレスたち、楽団員は二等船客としてタイタニック号に乗り込んだ。 桟橋を渡るときの心の高揚感は形容しがたいものであった。 (遠くから見てもあんなに大きかったんだ。真下から見ると、どんな建物よりも大きく見えてしまうよ。周りの船もおもちゃみたいに見える) ウォレスの興奮は最高潮だ。 思わず、バイオリンケースを落としかけた。 (おっと、あぶない!) 一張羅の服を着込んだ楽団員たちは二等のエントランスに入った。 「あれ……!?」 ウォレスは思わず声が漏れてしまった。 一瞬、一等に乗ってしまったかと思ったのだ。 絨毯がきれいに敷き詰めらていて、何しろ雰囲気が違った。 おそらく前の船なら間違いなく一等だっただろう。 だが、この船はちがった。 スピードよりも、乗り心地を重視していたが故、何から何まで、良くしていたのだ。 この様子だと、一等はどんなにすばらしいところなのだろう。 彼らははやく、一等のスペースで演奏したくてたまらなかった。
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