1912年4月10日

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2時間前、タイタニック号のブリッジ(船の最高司令部、いわば航海士の仕事場)では、スミス船長を中心に最後の打ち合わせが行われていた。 スミス船長は白い船服に身を包み、金ボタンが輝いている。 「では、みんな、この航海を最高のものにしようじゃないか!」 スミス船長が皆の意気を揚げる。 しかし、この言葉にはスミス船長にとってとても深い意味があった。 他の船員は気付かなかったが……。 実は、このタイタニック号の船長になる前、スミス船長はタイタニック号の姉妹船、オリンピック号で事故を起こしていた。 その事故は彼に多大な影響を及ぼした。 自尊心の傷という……。 その傷を癒すためにも、このスミス船長最後の航海は成功する必要があったのだ。 ブリッジでの打ち合わせの後、全乗組員をデッキに集めて簡単な避難訓練が行われた。 (今のところすべて完璧だ! あとは客を迎えるだけだな) スミス船長はそう思うと、一等のエントランスへ赴いた。
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