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タイタニック号を運行する会社、ホワイトスターライン社の実質的な所有会社である国際海運商事(IMM)の社長J.P.モルガン氏はフランスにいた。
「おい、キャンセルの連絡はちゃんといれたんだろうな」
モルガン氏は汽車の中で秘書に向かって怒鳴っていた。
頭は半分ほどは風にふきあたるようになっていたが、立派な口ひげを持ち、鋭い目つきは彼のすばらしい経営力を示していた。
彼の秘書は、長年モルガン氏に仕えていてこの怒鳴り声には慣れていたが、やはり言われて気持ちのいいことはない。
秘書はそっけなく返事をすると、モルガン氏の専用車両の端に再びもどった。
(ホワイトスターライン社という会社は本当にやっかいだ)
モルガン氏は初めはタイタニック号の処女航海に乗るつもりだった。
だがそれは、スミス船長が以前起こしたオリンピック号の事故によって変わってしまったのだった。
その修理費でホワイトスターライン社には多額の損害が発生してしまった。
そこでモルガン氏は恐ろしい決断を下したのであった。
(まあ、このことは内密だから親しい間柄でないといえないがな。きっとイズメイがうまくやってくれるだろう)
モルガン氏はすこしにやつきながらそう思った。
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