1912年4月10日

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エレベーターから降り、一等大食堂の扉を開けた。 大きく立派なテーブルには真新しい白いテーブルクロスがかけられ、革張りのいすが整然と並んでいる。 窓からのほのかな光と天井からつりさがるシャンデリアの光で、テーブルに並べられたシャンパングラスが光っている。 ウォレスたちはその広い部屋の奥に設けられた演奏スペースに、歩いていった。 「ウォレスさん、おそいじゃないですか」 チェリストのパーシーが笑いながらウォレスに声をかけた。 ウォレスより少しだけ年下のパーシー・コーリンズ・テイラーは、若いのに関わらず口ひげがよく似合う男だ。 反面、彼の性格はおどけたような幼さが残る。 それが彼の魅力だ。 「ごめんな。つい、離れていく“故郷”に郷愁がわいてしまって」 ウォレスはすこしふざけて返答した。 「ウォレスさん、もうすぐ入ってきますよ」 ファーストバイオリニストのJ.ロー・フームが少しせかす。 もう28なのに幼さの残る表情が特徴だ。 だがバイオリンの腕は誰よりも正確に、そしてメロディアスに演奏できると皆からも一目をおかれていた。
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