1912年4月10日

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一等大食堂のウェイターが扉を開け一等船客が中に入ってきた。 入り口の脇には船長服に身をつつんだスミス船長が立ち、入ってくる上流階級の紳士淑女に挨拶している。 ウォレスたちは扉が開くと同時にヨハン・シュトラウスのワルツ曲を演奏し始めた。 (すごい、まるで住んでいる世界が違うよ) 楽団の指揮を取りながら、ウォレスは思った。 まず入ってきたのは、ドイツ系アメリカ人の資本家、ベンジャミン・グッゲンハイム氏のようだ。 アメリカに渡り成功し、鉱山や精錬所を数多く持つ富豪である彼は、整った顔立ちで、まるで40代後半には見えない。 妻のアウベルトを連れ、しっかりとした足取りで席に着いた。 (僕もマリアをあんなふうに……) グッゲンハイム夫妻の姿を見て、ウォレスはマリアとの新婚生活を思い浮かべた。
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