1912年4月10日

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ウォレスは昼食会で演奏したばかりだったが、再び夜のディナーに向けて準備をしていた。 昼間と違い、シェルブールから乗り込んだ乗客も加わり、それに初日の夜なだけあって今晩のパーティーはかなり盛大なものになるようだった。 「もっとゆっくり演奏できるかと思ってたけど、そうはいかないみたいだな」 ウォレスはディナーパーティーの開かれる大食堂でバイオリンの弦の調節をしながら、ピアニストのセオドアに話しかけた。 「そうだな。でも明日は三等のスペースでアイリッシュとかのラグタイムを演奏できるんだよ。今夜のディナーのような雰囲気で演奏をするのも良いけれど、やっぱりあの皆が音楽を楽しんでいる空間で弾くのは、ピアニストとして幸せなんだ」 セオドアは笑顔を見せた。 他の楽団員もうなずいている。 彼らは皆、音楽を愛していた。
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