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1週間後
イギリスの港町リバプールは今日も活気づいていた。
次々と入港してくる蒸汽船の音が響きわたっている。
ウォレスはリバプールに着いた後、マリアの待つ家に帰る間もなく1人の男に呼び止められた。
彼は、ウォレスの乗るモルタニア号を所有しているキューナード汽船と争う、ホワイトスターライン社という船舶会社の社長であった。
「はじめまして、ハートリーさん。私は、ホワイトスターライン社の社長、J.ブルース・イズメイと言うものです。突然、呼び止めて申し訳ありません」
イズメイ氏は立派な口ひげに手をふれながら、紳士的にふるまった。
「いえ、こちらもあなたに話しかけられたときに、にらんでしまって……。申し訳ありません。あっ、申し遅れました。私、モルタニア号でバイオリニストをしている、ウォレス・ハートリーと申します。ところで、イズメイさん。ご用件はなんでありましょうか?」
「もうご存知かもしれないが、我が社は今年の4月に、世界最大の客船となるタイタニック号を処女航海にだすことになっている」
「ええ、知っています。ロンドン・タイムズで読みましたよ」
(まさか、招待でもしてくれるのだろうか)
ウォレスは少しだけ期待した。
「ありがとう。しかしだな、船に乗せるはずだった、自動演奏装置オーケストロンが処女航海に間に合いそうに無くてな、困っているんだよ。そこで、君に楽団長として、このタイタニック号に乗り、演奏をしてくれないだろうか?」
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