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嘘なんて嫌いだ。
見えた物を見えないと言い、好きな物を嫌いと言う。それはつまり、自分を否定するって事になるから。
別に、自分が好きってわけじゃない。だけど、自分で自分を否定したら、自分は、存在意義を無くしてしまうのだ。自分が認めていないのなら、信じていないなら、気にもしていないのなら、他人の評価さえも意味が無いのだから。
存在しない事と大差など無いのだ。
そう、嘘つきの俺は、存在していない事と、同じなのだ。
そんな自己嫌悪の始まりは、正直、今となればたいした事じゃなかったと思う。小学校中学年のいつだか、友達から悪い事をしようって誘われたのがきっかけだ。
善悪の判断が着かなかった俺は、後になって後悔した。悪い事がどんな事か今はよく覚えてないが、とりあえず、女の子がすごく泣いていた事だけはよく覚えている。
罪悪感から、俺は、先生にその事を話した。悪い事は駄目な事だから、正直に生きろって、いつだかテレビの向こうのヒーローも言ってたから。
しかし、それが間違いだったんだ。そもそも悪い事に参加した時点で間違いだったんだろうけど、俺は、さらに間違いを重ねてしまったらしい。
今まで友達だった奴らが皆、俺と距離を取るようになったのだ。チクりやがっただのなんだのという陰口が、わざとらしい口調で、教室のあちらこちらで行き交うようになり、ついには喧嘩にまでなった。5人対1人が喧嘩というかは解らないが。
そのボクシングごっこという名称の一方的な暴力を受けた日の夜、両親にすごく心配された。だけど俺は、大丈夫だよ、階段から落ちちゃっただけだから、と、人生で初めて、嘘を吐いた。
――ひどく、胸が痛んだ。
自分がとんでもないズルをしているような気がして、自分が自分じゃなくなるような感じがして、1人、部屋でこっそり泣く事しかできなかった。
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