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とある夜ーーーガリア王國の王都、王城の東に位置する豪邸の一室で一人の男が落ち着かなげに立ったり座ったり歩き回ったりを繰り返していた。
歳は二十代半ばから後半、燃えるような紅い髪に同じく紅い瞳、整った顔立ちの男ーーー四大貴族『フレイミア家』現当主・グレイ=フレイミアは居室の扉が開くのを今か今かと待っている。それを見てもう一人の男ーーー落ち着いた佇まい、グレイとの血の繋がりを感じさせる顔つきをしているーーーは、苦笑しつつ声をかける。
「少し落ち着けグレイ。そんなに心配せんでも手配した医者は我が國でも指折りの名医だ。彼にまかせればなんの心配もいらん」
「わかっています、父上。わかってはいるのですが…」
グレイは父ーーー『フレイミア家』前当主・ダイト=フレイミアに顔を向ける。
「やはり心配ですよ」
「まぁ初めてでは仕方がないか」
ダイトの顔には若干呆れが滲んでいる。自分も周りからはこんな風に見えていたのだろうかと考えるとこれ以上強く言えなかった。
「何事もなければそろそろ生まれるだろう」
ちらりとダイトは時計を見て時間を確認する。グレイの妻、ミラ=フレイミアが陣痛を訴えた時間から考えてそろそろ生まれてもおかしくない時間だ。
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