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あの入学式から季節を一つ跨いだ蒸し暑い夏。
『朔夜!!サッカーしに行こうぜ!!』
『おぅ!!』
隣のあなたとはまだ一言も話したことがない状態…。
でも、それでいい。
見ていられるだけで、幸せなんだから…
おれがあなたを見つめていられるのは、あなたがサッカーをしに運動場に出た時だけ。
楽しそうにボールを追いかけるあなたを見て、時々あなたの絵を描いてみる。
あなたにとって、おれは気持ちが悪い別世界の人間何だろうなって思うとやっぱり少しだけ悲しい…
『秋桜…』
ふいに呼ばれてあなたに向けていた目線を変えると、
『風宇くん』
幼馴染みのイケメンが立って微笑んでいた。
『ちょっと付き合ってよ』
『いいよ』
おれは風宇くんの半歩後をついて歩いて教室を出た。
『はぁ…』
中庭のベンチに二人して腰を下ろすと、風宇くんはいつもの態勢に変えた。
『やっぱ秋桜といる時が一番好きだ』
『また、そんなこと言って…』
『俺は秋桜がいいんだって言ってるだろ…!』
『わかってるよ、いいから寝なよ…何時に起こせばいい??』
『…昼休み終わる5分前』
『…ふふ、おやすみ』
膝の上にある風宇くんの頭を撫でると、風宇くんの目が静かに閉じて小さく寝息をたて始めた。
風宇くんはいつも頑張りすぎると疲れちゃって、ふらふらっとおれの元に来ては少し寝てもどっていく。
別にそこには邪な気持ちなんかは無くて、それは幼い時からずっとで…おれなんかでも必要としてくれているような気がして少し嬉しく感じていた。
多分、風宇くんは甘えているふりをしながら…おれを甘やかしてくれてるんだろうと思う。
それからおれは、時間になるまでずっと風宇くんの頭を撫でていた。
『風宇くん、風宇くん…5分前だよ』
『ぅん?…あぁ…わりぃな』
『…気をつけてね』
頑張りすぎないように…。
『おぉ…秋桜も見てるだけじゃなくて頑張って声かけろよな!』
『……!!』
『じゃあまたな!』
『ちょっ…風宇くん!!』
何で、何で??
何でばれてんの…??
風宇くんの言葉に唖然としていたけど、正気に戻って教室へと急いだ。
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