婆娑羅編

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長曾我部元親<甘> [至上の宝] 夜中ふと目を覚ますと、アイツの姿がなかった。 どこに行ったのかと辺りを見回したら、アイツは窓辺に腰掛けていた。 俺は起き上がると、そっと背後から抱き締めた。 すると肩越しに俺を見上げ、穏やかに微笑んだ。 何を見ていたのかと訊いたら、黙って外を見上げた。 同じように見上げたら、そこにはデッカい満月が浮かんでいた。 アイツは「手が届きそう」と言って、空に手を伸ばした。 俺はその手を掴んで、抱き締める力を強め、耳元に囁いた。 アンタが欲しがるもんは、何でも手に入れてやるよ。 例えそれが、空に浮かぶ月だろうと。 俺が心から欲しかったもんを……アンタはくれたんだからな。 そう言って俺は、至上の宝に口付けた。
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