1388人が本棚に入れています
本棚に追加
「サクサクっとやっときますよ♪ね?樹?」
いきなり呼び捨てされ肩を抱いてくる。
「なっ!?」
身を固め振りほどくように身体を捩った。
そんな私の反応も何のその、サクヤさんは立ち上がり私の手を握ってきた。
「さっ♪行こう♪オレたちが出てかないと社長も出掛け難いだろ?ほら♪」
強く手を引かれ私の腰が浮く。
「あっ…」
目を瞠りサクヤを見つめたが、彼は無視して引き寄せ抱き締めようとしてきた。
「サクヤさん!!」
抵抗の声を挙げたがサクヤの力は思った以上に強く、身体が前のめりに倒れた。
「あ!」
胸にぶつかりサクヤの腕がふわりと私を包む。
この状況を楽しんでいるのか
「ダメだよ樹?社長の前で大胆過ぎだって♪」
おどけたようにそう言うと私の頬を指先でつついた。
「ちょっと!!」
すかさず距離を取ろうと手で押した。
それでも背中に回された腕の力は強くてほどけなかった。
私は彼に流されるようにそのまま腰を抱かれ社長室を出る羽目になってしまった。
助けを求めるつもりで篤史さんを見たのに…。
「頑張ってくれよ…」
微かに微笑まれ、私とサクヤさんは見送られたのだ。
エレベーターの中サクヤさんと二人きり。
腰に回された腕はそのままで私は放心した。
(止めてもくれなかった…)
目の前でサクヤさんにからかわれる私を見ても…篤史さんの反応は1ミリも変わらなかった。
俯き、涙が零れそうになる。
サクヤさんの存在のおかげなのか…私は泣かずに済んだ。
けど…その後の打ち合わせに身が入るわけなかった。
.
最初のコメントを投稿しよう!