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馨の言葉で篤史さんへの虚しい気持ちが霞んだ。
酔った感覚も楽になり私は会場内へ戻って行った。
すると、私に飛び付くように慎二が駆けて来た。
「どこ行ってたの?探したよ?」
「ちょっと外の空気吸ってて…」
「もしかして酔った?大丈夫?」
私の顔を無垢な表情で見つめてくる。
「大丈夫よ…」
「なら良かった!これからさ皆でカラオケルームに行こうって言ってるんだけど、イッちゃんも来るよね?」
「私は…」
「ね!行こ!!」
手を強く握られ引かれた。
「やめて!」
強い拒否反応を示してしまった。
「えっ…」
慎二の目が見開きビックリした顔で私を見つめる。
「ごめんなさい…私、カラオケとか嫌いなの…」
「そうなの…?」
「…」
「ごめんね?」
捨てられた仔犬のように見つめ上げられ、目を潤ます慎二に気付いた。
「あ…慎二くんが悪いわけじゃないから…」
「でも…」
「本当にごめんなさい…ちょっとトイレに行かせて?」
「うん…」
慎二が見つめ続けていることはわかっていたが、彼の素直そうな瞳に心が痛んだ。
私はいたたまれず足早にその場を立ち去った。
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