薬指

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化粧室の鏡の前に立つ。 (酷い顔…) 目は濁り生気がない。 一瞬…日本を離れる前の自分とダブって見えた。 何かを変えようなんて思わない…思っても変わらない…。 あの日から私という人物は…大切な人を亡くしたことによって死んだようなもの。 愛することも、愛されることも望んじゃいけない…。 だって私は…誰かに必要とされるような女ではないのだから。 鏡の前でもう一度顔を作り目に光りを入れるよう意識した。 化粧室を出てすぐの廊下で滉と鉢合わせした。 「あ…」 声を発し立ち止まった彼の前で 「どいて…」 と無愛想に言い放った。 「お前さ…なんでいつもそんなに愛想ないんだよ?」 そう言った彼も仏頂面で私に言い放つ。 「あなたに言われたくないけど」 「お前…そんなんじゃなかっただろ?」 「えっ?」 何を言われたのか解らなかった。 思わず彼を見つめたら、見つめられた滉も何も言わず私を見つめ返してきた。 「あの…何のこと?」 「ふん!!いい加減思い出せよ…」 ボソッと一言残し私の前を去ろうとする。 「ねぇ!ちょっと!!」 私は大きな声で呼び止めていた。 一度立ち止まりチラッと振り向いただけで…彼はホールに戻ってしまった。 少し背を丸め歩いて行く彼の背中を…私は不思議な気持ちで見つめた。 (思い出せって…何のことよ…) .
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