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「ベッドの中でも優しくした覚えはないわ…」
愛しそうに頬を撫でようとする彼の手を払い、私は近くのバスタオルを取ってそこを出た。
部屋のあちこちに散らばった衣服、酔った流れで帰り着いた早々男と情事に及んだ。
その残骸が今の自分を虚しくさせる。
自分の過ちの後始末をするように残骸を掴み取り、濡れた肌にすぐ羽織った。
ストッキングを履き終えたと同時にソファーに投げ置いたカバンから携帯の着信音が鳴り響く。
(朝から何?)
少しの面倒くささを感じながらも私はボタンを押した。
それは会社からの呼び出しだった。
「はい…わかりました」
淡々と告げ通話を切ると、また先ほどの温かい腕が私を包んだ。
「行くの?」
彼はそう言い私の首筋に“チュッ”と何度も音を立てキスをした。
「すぐ来いって…」
「送ろうか?」
覗き込み窺う彼。
「一緒に行けるわけないでしょ…」
「ボクは知られてもいいんだけどな?」
また“チュッ”と響いた。
「私が困るのよ…」
優しく包む腕をまた振り払い、鏡で身なりを整え玄関に向かった。
外へ向かう最後の扉前、後ろから手を引かれふいうちに唇を奪われた。
散々味わった後、彼はねだるように甘い声で囁いた。
「今夜も来れる?」
またグリーンの瞳が揺れた。
「気が向いたらね…」
顔を背けそう返事すると
「そっか…気が向くことを祈ってるよ?」
その言葉に無言の返事を返し、今度こそ屋敷を出て車に乗り込んだ。
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