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到着し、長いエスカレーターを降りると、いかにも運転手の格好をした男性が私を出迎えた。
彼に付いて行き車に乗り込むと
『このまま社に向かってもよろしいですか?
それとも何処か寄りたい場所はありますか?』
と聞かれた。
「1つ行きたい場所があるの…そこからでいいかしら?」
淡々と告げ煙草を指に挟んだ。
『はい』
端的に返事をした運転手は私が告げた行き先にかしこまって受けると、静かに車を走らせた。
私の行きたかった場所…大好きだった人が眠る場所…。
花束を途中で買い、私は姉の眠る墓所に向かった。
姉の墓前には生前の姉を思わせる白いカサブランカが供えられていた。
私が来る少し前に誰かが来た証拠。
そう、これは姉の元恋人が手向けた物だとすぐわかった。
“君みたいだね”
彼はそう言っていつも姉にプレゼントしていた花だった。
複雑な気持ちが湧いた。
その気持ちを誤魔化すように私は膝まずき墓前に手を合わせた。
(姉さん…ずっと会いに来ずにごめんね…。
でも…あの人が“帰って来い”って言ってくれたの…
嬉しかった…。
本当にごめんね…私…まだあの人が好き…。
諦めることも忘れることも出来ない…。
姉さんを殺した私なのに…)
私の目から日本を離れた時から流すことなかった涙が一筋零れた。
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