1385人が本棚に入れています
本棚に追加
/899ページ
「あの時の…」
胸の中の樹がやっと思い出したのか俺を見つめた。
「やっと思い出したのかよ…」
「だからあの子姫って…」
「そうだよ!お前が名付け親!!早く気付けよな!」
「そっか…」
「だから…俺はあん時からずっとお前のこと好きだったんだぞ…。
俺にとっては…忘れられない出逢いだったんだからな!!
いつ会えるかもわかんねぇ女をさ…ずっと想い続けて10年も経っちまったんだよ!!
もっと早く思い出しやがれ!!」
「ごめん…」
樹は申し訳なさそうに俯いた。
「謝んなよ…お前が悪いわけでもねぇし…」
「うぅん…もし私があの後…篤史さんを好きになったりしなかったら…もっと早く会ってたかもしれなかったから…」
「ん?篤兄を好きになるのと…どう繋がりがあんだよ?」
「…」
自分で言いかけたことなのに、俺が追及すると樹は唇を引き結び黙りになった。
「おい?」
聞き直そうと顔を覗くと
「ここで何してるんだ!?」
部屋の入り口に篤兄が立っていた。
「あ…」
篤兄の姿を見て樹は小さな声を漏らした。
冷たい視線で俺たちを見る篤兄。
その視線に耐え兼ねたのか樹は俺の腕からすり抜け、篤兄の前を横切り走って出て行ってしまった。
「おい!!」
追いかけようと俺も部屋を出ようとしたら…。
「彼女はここで何してた?」
篤兄に腕を掴まれた。
「別に何もしてねぇよ!!」
(篤兄が原因なんて言えねぇし…)
「…」
訝る目で俺を見てくる篤兄。
「放せよ!!」
何も知らない風な顔をする篤兄にむかついた。
ゆっくり俺を解放した篤兄を横目に、俺は逃げるように走り去った樹を追いかけた。
.
最初のコメントを投稿しよう!