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最上階はワンフロアのみだった。
エレベーターの扉前には“社長室”と重々しく彫られたプレートが掲げられていた。
(この扉の向こうに…)
更に心臓は躍り増す。
安田さんがゆっくりと扉をノックする。
「安田です。藤島君をお連れしました」
明瞭な声色でそう告げると
「入りたまえ」
と低い声が中から聞こえてきた。
昔聞いたままの低く柔らかい声。
私の胸の高鳴りは激しく鳴った。
重い扉が開き中に入ると、黒檀のデスク前に優雅に佇む篤史さんがいた。
何かの資料に目を通していたのか、手には紙が握られメガネを中指で押し上げた。
メガネのレンズが太陽の光に反射し私は眩しさに目を細めた。
「お帰り…待ってたよ…」
彼は口元を少し緩め微かな微笑みを称え私にそう言った。
「お久しぶりです…」
会いたかった感情を押し殺し私は冷静さを装って返した。
私の会いたかった人
大好きな人
諦め切れない…愛しい人。
『待ってたよ…』という言葉とは反対に、篤史さんは淡々と
「そこに座って下さい」
とソファーを指した。
私は少しの落胆を感じつつも言われた通り従った。
目の前に座る愛しい人は三つ揃いのスーツに身を包み、長い足を華麗に組んで私を見つめた。
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