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「待てって!!」
部屋を飛び出した樹を追って俺は駐車場まで来ていた。
追い付いた頃にはもう車の前まで来ていて、俺の呼び掛けに足を止めてくれた。
乱れた息を整えながらゆっくりと歩み寄った。
遠くから見てもわかる樹の背中が泣いていた。
(そりゃそうだよな…)
姉の部屋で好きな男に“何してるんだ!?”と責めるように言われれば…。
(苦しいよな…辛いよな…)
ゆっくり近寄り泣き続ける背中を後ろから抱いた。
なんの抵抗もせず素直に抱きすくめられた樹。
俺は…悲しいまでの愛しさに彼女の首筋に顔を埋め強く抱き締めた。
「俺がいるから…お前には俺がいるからな…」
静かな駐車場に俺の囁きと樹の必死に涙を堪える声が響いた。
夜空を見上げ一度鼻をすすった。
ずっと抱き締めてくれていた腕に手を添え。
「ありがとう…」
それしか言えなかった。
そんな私を滉は何も言わず受け止めてくれた。
辛い場所から遠ざかれば…もう中へは戻りたくない。
今私がわがままを言ったら…滉は受け止めてくれるだろう。
今夜くらいは…甘えてみたかった。
滉の腕をほどき向き合う。
私を心配した手が頭を撫でてくれた。
「ねぇ?姫に会いたい…」
私のわがままに
「そうだな…俺も同じこと考えてた…」
彼はそう言って私の手を引いてくれた。
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