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「帰ろうぜ♪」
手を引き助手席のドアを開けてくれた。
「えっ…運転…」
「バカ…俺がするよ!泣いて目を腫らしたヤツにさせられるか♪」
私の肩を押し強引に座らせると、滉はニカッと笑って魅せた。
「もう…一言余分…」
きっと泣いて不細工になった私の顔を気にして言ってくれたんだとは思う。
滉らしい不器用な優しさが今の私には温かく感じた。
「連絡くらいしとかねぇとな…」
運転席に座ると、滉は携帯を取り出し誰かに掛けた。
「あぁ…俺。
うん…なんか具合悪いらしくてさ…先に俺たち帰っから……。
うん…会長にはよろしく言っておいてくれよ…ごめんな…」
端的に言い訳をし、切った。
相手は篤史さんなのがわかった。
でも、滉は敢えて彼の名を呼びはしなかった。
優しさに胸がチクリと啼く。
「さっ♪帰っか?俺の運転は超ヤバいからな!!しっかりベルトしとけよ♪」
わざとおどけた滉の優しさ。
私もわざと彼に付き合った。
「人気アイドルが自動車事故なんて洒落にならないからね!!
ちゃんと安全運転でお願いします!」
「おぅ♪生言う元気あんだ?見てろよ♪俺のハンドル捌き!」
そう言って軽快な音を立て発進する。
無茶なカーブに体が揺れた。
「ちょっと!?危ない!」
「ハハッ♪冗談だって♪」
私の反応が可笑しかったのか、楽しそうに笑うとそれからは普通に運転してくれた。
「もう!」
悪い冗談に頬を膨らました私。
そんな樹の表情が10年前を思い起こすようで幼く見えた。
夜道の車中、二人は見つめ合い微笑んだ。
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