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四人だけのエレベーター内
何か得体の知れぬ空気が漂っていた。
階数表示が9階を報せドアがゆっくり開いたのに…馨は降りようとしなかった。
「馨ちゃん?着いたよ?」
隣に立っていた慎二に声を掛けられ我に返った。
「あ…」
(オレが降りて慎二が降りた後…滉たちはまた二人きりに…)
そう思うと降りることを躊躇してしまう。
でも…降りなきゃ怪しい。
オレは仕方なく
「あぁ…おやすみ」
と言って降りた。
ドアが閉まる寸前…ほんの一瞬樹と目が合った。
彼女を見つめたオレの視線は…さぞかし痛みを与える視線だったと思う。
10階、慎二は元気よく降りて行った。
二人きりのボックス内、二人きりになった途端。
「今から部屋…来るだろ?」
滉が振り向いて私に尋ねた。
「えっ?」
「姫に会いたいって…さっき言ってただろ?」
断ることを許されない瞳で見つめてくる。
私の中で、先程の馨の視線がチクリと痛みを伴っていた。
でも…約束を破るのはいけないと思った。
「あぁ…そうね、少しだけ会いに行こうかな?」
私がそう答えたら
「そっか♪」
滉の顔は一変して笑顔になった。
その少しはにかんだ滉の笑顔に10年前の彼の姿を思い出した。
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