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馨の声が震えているのが耳に伝わる、それが息遣いで伝わった。
「どうして…どうしてあなたも滉くんも…私の中へ入り込もうとするの…?
放っといてよ…私は放っといて欲しいの!
私が何を言われようが…篤史さんを好きなことも…寂しくて辛くてどれだけ泣いたとしても…誰かにとやかく言われたくない…」
馨の胸を叩き、必死に心の叫びを絞り出した。
一粒の涙が頬を伝い馨の手首に落ちた。
涙に濡れた手首を見て、樹の首から手を放した。
「どうして自ら辛い中へ留まろうとする?
もっと…自分を甘やかしてぬるま湯に浸かってもいいじゃないか…?
お前を好きだと言うヤツが目の前に居るのに…」
「…」
哀しみに歪む樹の頬を馨の優しい手が拭った。
「それが…私の犯した罪による贖罪だからよ…」
「贖罪…?」
樹の言っている意味が理解出来なかった。
彼女は何に贖罪しなければいけないのか…。
「お願い…独りになりたいの…」
馨の胸を押し返す手が震える。
それ以上入り込めない樹の雰囲気に馨は仕方なく引き下がる。
それを知って樹は静かに部屋に入ってしまった。
何も言えなくなった馨は大人しく見送ることしか出来なかった。
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