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バクは驚きつつ、
「ええっと、つまり息子さんは現在売れないロックシンガーやってて、あなたは息子の会社を継がせたい。だからロックシンガーの夢を諦めさせたい………ってことですよね?」
逆に質問した。
「そういうことだ」
「しかし、こういうのは息子さんの承諾がないと………」
「大丈夫だ。手は打ってある」
偉そうな男が、手を叩きました。
ドアが開いて、沢山の音楽機材が運ばれてきました。
「おい、これ俺のじゃねーか」
積み上げられた音楽機材の周りに、たくさんの人が集まります。
手にはそれぞれバットやカナヅチが握られています。
たくさんの人が、いっせいに機材を殴り始めました。騒音と、機材が壊れていく様子が、バクも息子もよく見えました。
「てめぇら何してるんだよ!やめろ!」
息子が叫んでも、機材の破壊活動は止まりません。
むしろ、加速していきます。
息子は必死に黒子の手をふりほどこうとしますが、無駄な努力でした。
そんな息子を後目に、機材は形を失っていきます。
とうとう、叩く音が音が小さくなってきました。叩ける固形物がほとんどなくなったからです。
そうなってから、偉そうな男の命令で、黒子は息子の手を離しました。
息子はまるで、大切な友人の死体を見たかのように、その場に力無く座り込みます。
「ちくしょう」
目からは、涙が流れ出します。
「ちくしょう………なんで、だ。なんで!!なんで!!!」
だんだん声が大きく、怒りに変わっていく息子を、偉そうな男は冷静に観察していました。
そんな自分の父親を、息子は睨みました。
「よ………くもっ!」
あまりの怒りからか、息子はほとんど声がでませんでした。
「お前を幸せにするためなら、なんでもする。たとえ、憎まれても、睨まれてもな」
その言葉を合図かのように、息子は立ち上がりました。
バクはてっきり、殴りかかるかと思いましたが、そのままドアを開けて、静かに出て行ってしまいました。
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