Chapter1 本を開けば

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【Page2】 智ヶ崎高校の第2図書室は人が全く訪れない教室である。 最新の本や新聞、人気書籍などが揃った第1図書室を利用する生徒は多いが、数十年前の作品など、古い本が置かれた第2図書室を利用する生徒は本当に少ない。 というより存在を知っている生徒が少ない場所だった。 第2図書室の存在を知らぬまま3年間を過ごし、卒業してしまった者も中にはいるだろう。 現在、第2図書室は鍵をかけられ、学校司書の先生に鍵を借りなければ利用することはできない。 そのため、生徒たちの間では「開かずの間」と噂され、敬遠されていた。 が、そんな第2図書室を利用する者がまだ入学して半年も経たない第1学年の生徒の中にいた。 「あ~、やっぱしねぇな。」 総矢は閑散とした放課後の第1図書室で吐息混じりにそう呟いた。 どうやら目当ての本が見つからないらしい。 「先生、やっぱしなかったわ。」 本の貸し出しを行うカウンターの内側でパソコンをいじっていた老人教師は、カウンターの方までやって来た総矢を見上げた。 「ん~?そうかぁ?確かにこの学校にもその本はあったはずなんだがなぁ……。」 困ったように老人教師は首を捻る。 と、ふと思い付いたように顔を上げ、総矢にこう言った。 「じゃあ第2の方にもあるかもしれないな、古い本だし。」 「あぁ、確かに。じゃあ第2の方見てみるよ。つーわけで、鍵貸して。」 総矢は鍵を受けとると、第1図書室を出て司書室と倉庫を挟んで奥にある第2図書室へと向かった。 ドアにつけられた古びた錠を慣れた手つきで開け、第2図書室の中へと入っていく。 そう、第2図書室を利用する1年生とは総矢のことである。 入学してから毎日のように第1図書室に通っていた彼は、本を借りている内に第2図書室の古本も借りるようになったのだ。 →
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