父の筆跡

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「早大!サボらないでよ。今日中に始末しちゃいたいんだから」 と母の声がかかった。 「まったく、あんまり物を溜め込まない人だったのにいざ始末しようってなると意外に大変なのね」 そう言いながら、特に未練もなさそうにポイポイと父の遺品をゴミとして分別していく。 キャッチボールをしたとき父が使っていたミットも既に縛られている。 女の人はこういう所はシビアだ。感動ものやシリアスものなど泣ける映画や話に触れたときポロポロ顔を真っ赤にして泣きじゃくるくせに自分の好きな人のことは次に好きな人が出来ると直ぐに過去のことになる。 母も同じで近いうちに陣内さんという母の会社の上司と再婚することになったため、さっさと前の夫との品を処分しているという次第である。 「何か売れるものがあったらよかったのに全部使い込んだものばっかで使えやしないわ。あんたも片っ端から片付けてね」 元カレから貰ったアクセサリーなんかを質屋に持っていく女性の話を聞いたことがあるが母も同類らしい。なんだが結婚というのが面倒になっていく。 そんなことを考えながら無意識に自分の学生カバンの中に手に持っていたノートを突っ込んでいた。 どうせ他は全て捨てられてしまうのだ。ひとつくらい父の遺品を自分が持っていたってバチは当たらないだろう。 母にとって父が過去の夫でも自分にとって父は最後まであの人だけなのだ。 きっと母は早大のこんな気持ちなんて分からないのだろうが。 親に子供の気持ちは分からないのだ。 他の遺品を全て片付けるまで早大が母に話しかけることがなかったことにすら母は気づいてないようだった。
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