◇二話◇

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「お前……ホントはもう、とっくに目ぇ覚めているんだろ?」 ピクリ、と毛布に埋まった肩が跳ねたのを確認して、距離を保ったまま話しかける。 「…うるせぇよっ……こっちくんな……オレに触んじゃねェっ」 すかさず目付きの悪い緑色の目が睨めつけてきたので、なるべく刺激しないよう、抑えた声を掛けると掠れた唸りのような返事がかえってきた。 威嚇を露わにした奴の顔色は、相変わらずに悪い。 「うん、それはお互い様だ。 とにかく、まずはその傷を手当てするから。こっちにこい」 「……いい。んなもん、ほっときゃ治るだろ」 「ダメだ。それともお前、このまま傷を悪化させて腐り死にたいのか?」 「っ?! べ、別に…っ」 決まり悪そうに口を尖らせた拗ね顔が、プイと逸らされる。 おっと、何だ今の反応。 ちょっと可愛いんじゃないの。 「じゃあ黙ってついてこい」 「おっ、女に助けられるなんて情けねーことできる訳ないだろ!」 「怪我人がなに言ってんだ…結構ひどい傷だな。ケンカか? 何しでかしたんだよお前」 救急箱を持って近付けば、その分だけ逃げる。 ソファに逃げ込んだのを利用して押さえれば、白い生き物はむくれたような顔をして更に口を尖らせた。 …子供かお前は。 「お前には関係ねーだろが」 おっと、そこは詮索はしないお約束か。 「ま、それもそうか。 って言っても勝手に手当てしちまうけどな」 「てめっ、なにしやが…痛てえええぇ!!」 傷に宛てた消毒液が沁みたらしい。 白い生き物は涙目だ。 「ああちょっと沁みたか、すぐ済むから動くんじゃないぞ」 「しっ…しかもちょっとじゃねーしっ、かなり痛かったぞ今のっ! もっと丁寧に扱いやがれチクショウ!」 「騒がない騒がない、手当てしてもらえるだけ感謝しな…あとは着替えだね。 ほら、受け取れ」 「っと、投げんなよ」 「その服、デカいかも知れんが我慢しろな」 洗濯機の上に畳んであったスウェットと黒いフリースを怖々と受け取った白い生き物は、こちらに不審げな視線を寄越しながら服を着替え始めた。
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