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「お前……ホントはもう、とっくに目ぇ覚めているんだろ?」
ピクリ、と毛布に埋まった肩が跳ねたのを確認して、距離を保ったまま話しかける。
「…うるせぇよっ……こっちくんな……オレに触んじゃねェっ」
すかさず目付きの悪い緑色の目が睨めつけてきたので、なるべく刺激しないよう、抑えた声を掛けると掠れた唸りのような返事がかえってきた。
威嚇を露わにした奴の顔色は、相変わらずに悪い。
「うん、それはお互い様だ。
とにかく、まずはその傷を手当てするから。こっちにこい」
「……いい。んなもん、ほっときゃ治るだろ」
「ダメだ。それともお前、このまま傷を悪化させて腐り死にたいのか?」
「っ?! べ、別に…っ」
決まり悪そうに口を尖らせた拗ね顔が、プイと逸らされる。
おっと、何だ今の反応。
ちょっと可愛いんじゃないの。
「じゃあ黙ってついてこい」
「おっ、女に助けられるなんて情けねーことできる訳ないだろ!」
「怪我人がなに言ってんだ…結構ひどい傷だな。ケンカか?
何しでかしたんだよお前」
救急箱を持って近付けば、その分だけ逃げる。
ソファに逃げ込んだのを利用して押さえれば、白い生き物はむくれたような顔をして更に口を尖らせた。
…子供かお前は。
「お前には関係ねーだろが」
おっと、そこは詮索はしないお約束か。
「ま、それもそうか。
って言っても勝手に手当てしちまうけどな」
「てめっ、なにしやが…痛てえええぇ!!」
傷に宛てた消毒液が沁みたらしい。
白い生き物は涙目だ。
「ああちょっと沁みたか、すぐ済むから動くんじゃないぞ」
「しっ…しかもちょっとじゃねーしっ、かなり痛かったぞ今のっ! もっと丁寧に扱いやがれチクショウ!」
「騒がない騒がない、手当てしてもらえるだけ感謝しな…あとは着替えだね。
ほら、受け取れ」
「っと、投げんなよ」
「その服、デカいかも知れんが我慢しろな」
洗濯機の上に畳んであったスウェットと黒いフリースを怖々と受け取った白い生き物は、こちらに不審げな視線を寄越しながら服を着替え始めた。
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