◇一話◇

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かなり見窄しく汚れた風体で自宅マンションの玄関口に俯せていたものだから……夕方の土砂降りの中に放置するなんて鬼の所業ができる筈もなく。成行き上、結局拾ってきてしまったという訳だ。 厳密な理由を考えてみても、残念ながら特に理由らしいものはやはりこれぐらいしか見つからない。 疲れた状態で物を考えたせいか、徒労感がもっそりと心内に蟠っていく。 傘越しに見たコイツの顔は血の気がなくて青白く、それを際立たせるようにベッタリと張り付いた血糊がやけに鮮やかで。 しとどな雨音が高まっていくのを背中で感じながら、私はこの生き物からなぜだか目が離せなかった。 2月14日。 毎年のことだけど、世間では聖バレンタインとかで浮つくこの時期。 別に恋人と過ごすわけもない、さしたる感慨もない平凡なある雨の日。 私は風変わりな一人の男を拾った。
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