他者に厳しく、己に厳しく、強き魂をもて

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‥‥‥‥ん? 何だろう、この違和感。 佐伯さんは確かに笑っているんだけど‥この違和感は? 「結菜ちゃんは面白い子だね」 違う。 佐伯さんは、壬生浪士組の人達と何かが違う。 根拠なんてない。ただ感じるだけ。 好青年だと思った佐伯さんの瞳は、どこか暗さを感じる。 大して話をしたわけでもないのに。佐伯さんの事をよく知っているわけでもないのに。 ――――怖い。 直感的に怖いと思ってしまったせいか、私の頭の中は早くこの場から逃げなきゃという考えしかなかった。 「結菜ちゃん?」 「えっあ‥すいません、ボーッとしてました!」 「さっきまで叫んでたのに?はははっ」 佐伯さんは目を細めて笑う。 その優しい笑みは、私にとっては恐怖でしかなかった。 ああ、私はこの目を知っている。 ここは幕末。 武士は腰に刀を差しているし、戦もあった時代。 壬生浪士組、新選組は人斬り集団と言われるくらいなのだから当たり前なのかもしれない。 気づけば私は、口を開いていた。 「佐伯さんは、人を殺めたことがありますか?」 馬鹿だ、何を聞いてるんだ私は。 聞いてどうするんだ。 私の質問に佐伯さんは一瞬不思議そうな表情を浮かべてから、また目を細めて笑った。 その笑みの意味はどういう意味? 私の顔と声が間抜けだから? それとも‥‥‥ 「あるよ」 人を殺めることに、喜びを感じているから? 「‥‥‥‥っあ、な、なに聞いてるんですかね私!」 私は喧嘩に明け暮れた時代、この目を持つ人間に一人だけ出会ったことがある。 そいつはナイフを持って笑うんだ。 楽しそうに、無差別に人々にナイフを突き刺して笑うんだ。 今の佐伯さんのように。 「どうしたの?怖くなっちゃったかな、ごめんね」 頭を掻きながら苦笑いをする佐伯さん。 優しく気遣ってくれているのに、そう感じられない自分がいる。 「結菜ちゃんはここに来たばかりだからまだ分からないと思うけど」 佐伯さんは私の肩に手を置いた。 それから私の耳に口を寄せ、私だけに聞こえるように囁く。 「ここの人達は手柄を欲している。だから俺だけじゃなく誰もが人を殺める」 そう言い終えてから、佐伯さんは私から離れ、歩いていってしまった。 佐伯さんは私の変化に気づいたんだろう。 故に、あんなこと言ったんだ。
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