プロローグ

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 ――いったいどこを歩いているのだろう。ここがどこなのか、どこへ向かっているのか。それは少女自身にもわからない。  胡乱な瞳は視点が定まらず、ぼんやりと地面に視線を這わせている。心は一切の感情――喜怒哀楽の色彩をうしない、よどんだ白が広がっていた。  たった五歳の少女にとってそれはあまりにも重く、心の崩壊を招くには十分過ぎるほどだった。  ――お父さんはきっと帰ってくる。  そう信じていた彼女に突きつけられたのは、残酷な現実。帰ってきた父は、小さな木箱という変わり果てた姿となってしまっていた。それにかつての面影はなく、ただただ沈黙を続けている。その事実を許容するには、少女はまだ幼すぎた。 「お父さん……」  少女は今にも泣き崩れてしまいそうなほどにもろい。少女にとって唯一の家族はこの世を去った。もはやその瞳に感情は宿っていない。  わずかな希望も絶望すらもない、完全な無。穴だらけで歪な心は、いつまでその形を保っていられるだろうか。  焦点の定まらない――暗闇に堕ちたような――虚ろな少女の瞳は、もはや本来の機能を果たしていない。いや、目が視認した景色を脳が認識していない……というのが正確なところだろう。
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