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少女は、細い足で行く先も分からぬまま歩きだした。足を引き摺りながら、一歩ずつ一歩ずつ。
ゆっくりだが、確実に進んでいく。
こうべを垂れ、力なく腕を放って足を進める彼女の姿は、まるで街をさ迷う亡霊のようだった。
街の至るところに架かる橋――その中でも随一の大きさを誇るルーチエ大橋の中腹にさしかかったところで、
「マナっ!」
怒りと慈愛をはらんだ絶叫が轟く。
同時に、少女は温もりに満ちた両腕にやさしく――それでいて力強く抱きしめられた。
決して離さない、という確固たる強い意思。少女の細い体駆を抱きとめる腕には、心の深淵に響くような――むせかえるほどの人間の慈愛にあふれていた。
「マナ、一緒にくらそう。あたしがお前の親になってやるから……家族になってやるからっ! だから行くなっ! 頼むから、行かないでくれ……」
――行くなっ!
その言葉は少女の胸中深くに残響し、色を失ったこころに一滴の感情という色を落とした。それは少女のなかに静かな波紋をつくり、全身へゆっくりと伝播していく。
心が、次第に色を取り戻してゆく。
戻りつつある意識のなかで、少女は涙が頬を伝っていくのを感じていた。優しく抱きとめてくれる腕の中で、少女は安心して泣いた。
夜の水上都市に響きわたる慟哭。それは、消失していた感情が戻ったという証でもあった。
夜空に光る天の川のように、街の人々の清らかな心を映すかのように。
徐々に開けていく視界一面に、広がっていた。――沈みゆく太陽を映して紅に輝く、大きな運河が。
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