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1つ年上の姉貴は小さな頃から泣き虫だった。
道で転んでは泣き、
大嫌いな虫を見ては泣き、
お気に入りのスカートを汚してしまったと泣き、
しまいには、泣きすぎて頭が痛いと泣いていた。
「裕太は強い男の子なんだから、芽衣のことをしっかり守ってあげなさい。」
生まれつき身体の大きかった僕に、昔からよく母が言っていた言葉だ。
僕が生まれてすぐに父さんは死んだ。交通事故だった。
もちろん、僕も姉貴も
父さんについても、父さんの死についても、覚えていない。
しかし、子供とは残酷な生き物で
僕たち姉弟は、幼稚園でも小学校にあがっても
"父親がいない奴"と、馬鹿にされていた。
姉貴はいつも泣いていた。
僕は、父さんがいないから、と馬鹿にされたことより
姉貴が泣かされていることに
傷ついた。腹が立った。
姉貴の涙なんて見慣れていた。
でも、父さんのことを言われた時の涙は違った。
「父さんがいないのは変だって…
お前の家族は変だって……
私も裕太もお母さんも…
お父さんも…
変なんかじゃないもん…」
哀しい涙だった。
小学生だった俺は、
泣いている小さな小さな女の子を見て、思ったんだ。
"今日からは俺が守ってやる"
"もう姉貴が哀しい涙を
流さなくていいように"
それからもう十年が経つ。
決意したあの日から変わらず
俺は姉貴を守るヒーローだし
姉貴は泣き虫なお姫様だ。
ただ、ひとつ、変わってしまったこと――――。
それは、姉貴が重度の腐女子になってしまった、ということだ。
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