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四時間目が終わり、持参したお弁当を食べ終えると、いつものようにわたしは、人気のない屋上へ行き、風の吹くなか、台本を開いた。
この台本は、母が昔、使っていたものだ。
「んんっ…あー、あー」
咳払いをし、気持ちを整える。
そして、本の中の、役の気持ちになる。
普段だと、使うことも無いだろうという台詞でも、役に入り込むと、なぜだか、自然と話せられる。
台本通りしゃべるだけではだめ。気持ちを込め、動きもつけ、表情も変える。
わたしは、このようなことを、中学の時からずっとやっている。
勿論、家でも。
母が亡くなった当初は、明るかった家も、暗く、寂しく感じていた。
父との会話も、ほとんどなかったように思える。
だが今では、昔のように、明るい家庭に戻りつつあるのだ。
わたしは一人っ子なので、部屋でのびのびと、芝居の練習をしている。
父にも、わたしの夢を話し、温かく見守ってくれている。
わたしはとても、充実した毎日を過ごしていると思う。
父も汗水流して働いてくれていて、幸せに暮らしていた。
春が過ぎ、夏が来て、わたしたち学生は、夏休みに入った。
長期間の休みで、思う存分練習が出来るので、わたしは喜んでいた。
毎日毎日、朝から晩まで、台本を片手に持つ。
ある日、息抜きをしようと、わたしは散歩をしていた。
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