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カンカンカンカン――
カンカンカンカン――
「ねえ、そこの少年」
帰り道の途中、町外れの踏切に入ろうとした僕の足を引き止める、踏切警報機の目に突き刺さるような赤い点滅と、押し付けがましい喚き声。
「……何ですか?」
と、真っ赤なワンピースを着た女性の声。
頬を伝う汗を振り払うのも兼ねて右手を向くと、その女性は顔の半分以上を白いマスクで覆い、黒々とした前髪と、唯一顔に残された肌の間からじっと僕を見つめている。
その赤と白のちぐはぐな風貌に、僕の脳内検索に一件ヒットする言葉。即ち《口裂け女》。
「ワたし、きレイ?」
ゆっくりと、僕から行く手を隔離するバー。
黄色と黒の虎模様が目の端っこに異常なまでに焼き付き、僕に危険を訴える。
ま、口裂け女だなんてそんな訳……って、ん? え、ちょっ今なんて言った?
「きっ、キレイと言われましても、顔がほぼ隠れているので判断に困りますし、そもそも女性の美しさの基準なんて人それぞれな」
「これでも……?」
僕の言葉の途中で、妖しく目を歪ませる、赤い女。
次の瞬間、白くてか細い指が、荒々しくマスクをむしり取った。
握り締めた防犯ブザー。
わざとらしく轟音を立てながら、僕のことを知らんぷりして通り過ぎる電車。
ああ、そこにあるのはきっと、耳元までざっくりと醜く裂けた……
「……は?」
……うん、前言撤回。特に裂けてなかったわ、口。ほぼ全国平均だわこれ。
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