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「口、裂けてないじゃん……」
「なんで裂けてなきゃいけないの?」
「えっ」
「えっ」
あ、この人ヤバい。マジヤバい。
マジと書いて本気でヤバい。
「いや、いやいやいや……アンタ、結局何がしたいんだよ!」
「ヨーグルト」
「しりとりじゃねえから! もうヤダ怖いこの人! 言動のすべてが謎!」
「まあまあ、そう慌てるでない少年よ。はい、ひっひっふー」
「逆にアンタの余裕はどこから来るんだよ! 目の前に変質者がいたら誰だって慌てるわ!」
ツッコミ続ける僕の一方で、顔色一つ変えずに淡々と言葉を発する、口裂けない女。
ようやく完全に露わになったその素顔は、ぱっちり二重のつり目が印象的な、凛とした顔立ち。口は裂けてない。ザ、普通。
長い黒髪と、透き通るような色白の肌。年齢はだいたい高校生位だろうか。
どこか人を寄せ付けないというか、クールというか、冷たいというか。なんだろう、そんな雰囲気。
「ほら、踏切開いたよ。さあ少年よ、渡れるもんなら渡るがいい」
「さ、さよならー!」
早く、一刻も早く、ここから逃げよう。
本当は今日実行する予定だったんだけどな。ま、いいや。
「…………」
わざと、レールを踏みつけながら踏切を渡る。
……あれ? 何だろ、この気持ち。
踏切を渡り終えて、ふと振り返ると、あの口裂けない女の姿は既に消えていた。
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