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ああ、朝なんか来なければいいのに。
ああ、明日なんか来なければいいのに。
……時間が、戻せればいいのに。
さあ今日こそ、こんな日々から抜け出そう。足を踏み出そう。
目指すは、あの踏切――。
「やあ少年、昨日ぶりだね」
「わあああああ! また居るよあの人こんちくしょう!」
見覚えのある女の人が、あたかも僕を待っていたかのように、踏切の前で静かに佇んでいた。
どこまでも深く、何よりも鮮やかな赤色。
昨日の記憶が、その赤いワンピースを中心に鮮明に蘇った。あ、今日はマスクしてないのね。
「うーん、やっぱりあまり見ない顔だな君は。何年生だい?」
「中学1年生。僕、普段登下校する時はここ通らないから。……それより、ほんと何してんのアンタ?」
「暇潰し」
「暇を潰すために子供を襲うのかアンタは」
「あと、探し物」
「どっちだよ」
「どっちも」
「うん、訳が分からない。アンタ何者?」
「また、この踏切に来たんだね」
そう言って、軽蔑するような冷めた目を僕に向けてきた。
濁った、生気の無い瞳。でも何故だろう。まるで、全て見透かされているような。
な、なんだよ……何が言いたいんだこの人は。
「ほら、踏切開いてるよ。渡らないの?」
「……逆。待ってんだよ、電車が来るの」
「変なの」
「ははっ、アンタにだけは言われたくない」
ああそうさ。変だということは十分理解しているけれど、僕は電車が来るのを待っている。
だって、もう、イヤなんだよ。
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