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「はあ、はあ……」
その日の帰り道。
走る。風を切り、景色を置き去りにし、走る走る。
目指すは、あの踏切――。
「……あれ?」
そこには、珍しく赤いワンピースを着た口裂けない女の姿は無かった。
けれど代わりに、踏切の前でうずくまる、中年男性の背中が。
「すみません、あの……」
「あ、はい、何か?」
振り向いた彼の顔を見た瞬間、正直に言うとぞくりと戦慄が走った。
深く刻まれた数多くのシワと、げっそりとやつれた頬。
そして何よりも、光を宿さない落ち窪んだ瞳。
一体、どうしたらこんな状態になるんだろうか。気にはなるが、「何かあったんですか」と不躾に聞けるはずもなく、ひとまず本題に入った。
「ここにいつも立っている女の人を知りませんか? 高校生位の……」
「うーん、一度も見たことないなそんな人」
僕の質問にそう答えた後、彼が重たそうに腰を上げたお陰で、今まで踏切の前で何をしていたのかを知ることができた。
「その、花束とお線香は……?」
「ああこれかい? 娘がさ、この踏切で死んだんだ。自殺だとよ」
この時のことは、多分一生忘れない。いや、忘れられない。一瞬にして、全身に鳥肌が立ったことなんてないからさ。
「……もしかしてその人、亡くなった時に赤いワンピースを着ていませんでしたか?」
「ああ、俺が病院に駆けつけたらさ、あいつ赤いワンピースを着ていたよ。……元々は白いワンピースだったんだけどな」
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