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空を見上げた。 月も星も、どんよりと厚い雲に隠れて見えない。 雨が降るかもしれないと思ったが、夕刻からこの空のまま、一向に雨は降ってこない。 ふと、右側の視界の隅、瓦礫の向こうに動く影を捉えて見やれば、そこには小さな背中が見えた。 走っている。 直ぐ様その小さな背中を追った。 小さな背中は獣道にすらなっていない林に入っていった。 ガサガサと音を立てながら草木を掻き分け、ドンドンわたしから逃げるように走っていく。 それを追って私も林の中に踏みいると、うっすらと錆びた鉄のような匂いがわたしの鼻腔を擽った。 私の指先に、うっすらと血が滲む。草で指を切ったのだと理解した。 ―瞬間。私の口角が上がった。仮面の下で、仮面と同じように、私の口が歪んでいく。 至極楽しげに。 走る速度を上げ、腰程の高さの草木を踏み潰しながら小さな背中を追いかける。 小さな背中の持ち主は身長が足らないのか、背の高い草から頭は見えないが、真っ直ぐと先へと進んでいる。 捕まえられる程近くまで追い付いたところで走る速度を落とし、離されたところで再び速度を上げる。 まるでワルツを踊っているようだと、踊ったこともないのに思った。 ステップを踏むように、軽い足取りで走る。 追いかけ、追い付き、逃がし、追いかけ、追い付き、逃がし…。 たっぷりそれを繰り返したところで、林を抜け、開けた場所に出た。 思ったより深かったことを考えると、どうやら林から森に入り、山の麓辺りまで来ていたらしい。
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