オンマの屋台

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 その日は雨が1日降りやまず、 春だというのにとても肌寒く……だけど、会社の花見がお流れになって良かったと美津(みつ)は思ってた。 花は愛でるもので、酒の肴にするものではないと思っている。 それに新入社員は朝から場所取りで、ブルーシートの上で昼寝を決め込んでいる。 ほのぼのしていると言えばそうなのだが。 これも春風の成せる技か…… 平和だが、非合理なこの慣習をどうにか出来ないものか。 (きっと私は頭が硬いのだろう……)  美津は大手銀行ローテラーの仕事をしており、主に投資信託を担当している。 日本の企業だが、頭髪の色以外は自由で、ピアスもネイルもオッケー。 実績を上げれば何も上司からの不可侵領域はなかった。  毎日、日経やダウや終値を読み、上司と前向きなディベートを重ねる。  充実していると言えばそうだが、どうしても理屈からものを考える癖(へき)になり、付き合った男は皆、多分逃げていった。 男はこう言う―― 『美津は、独りでも大丈夫な立派な女性だよ? でもあの子には、俺がいないとダメなんだよ!』
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