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「陛下、やはり天空王殿も龍神王殿も援軍を出すつもりはないようでございます」
「そうか……」
と答えた男は、玉座のひじ掛けを苛立たしげに指でトントンと小突いた。
「あやつらめ、自分たちの世界が大変だった時はああだこうだと文句を言っておったくせに」
玉座の据えられた広間には神秘的な薄もやが広がっており、苛立つ王の白髭を淡く覆い隠している。
「それで?神鳥のほうは?」
「はあ、それが神鳥殿でございますが……」
苛立ちをぶつけるかのように王が問うと、傍らの男は元々低い身の丈をさらに縮こめ、言いづらそうに答えた。
「神鳥殿は只今、ご出産のご準備期間とのことにございます」
「あの鳥め!!まだ卵を産むつもりなのか?まったく、使えんやつらじゃ」
隣で平身低頭する側近に当たっても仕方ないことだと思い直し、王は白髭を捻りながら玉座に腰を落ち着けた。
「どいつもこいつも頼りにならん。かといって手をこ招いていては魔王の力が増すばかり。いったいどうしたものか……」
広間に満ちる薄もや。
そこから時折覗く王の青い瞳に常時のような威厳はなく、精彩を欠いて見える。
憔悴、という言葉こそが、この時の王を表すに最も相応しいものかもしれない。
めったに荒ぶらないこの王がここまで苛立っているということが、何よりの証左だろう。
側近は王の傍らで、そう、感じていた。
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